フットサルにはほど遠いプレー

今から10年以上も前になりますが、15歳以下のフットサルのゲームでは、ゴールキーパーが投げるボールはハーフウェーラインを越えて味方競技者にフィードすることが禁止となりました。

その後、2010年だったと思いますが、“手で投げなくても、ゴールキーパーがボールを相手ハーフ内に蹴り入れることによって、同様の状況が発生し、フットサルにはほど遠いプレーが散見される”との理由により、スローだけでなく、キーパーからハーフウェーラインをノーバンで越えるキックも認めないこととする、との競技規則の改正がありました。

確かにその当時、試合の後半ぐらいからキーパー同士のロングスローのキャッチボールになってしまい、フットサルの醍醐味が失われるという理由から、育成年代でもあるU-15においては最初はスロー、続いてキーパーのキックもノーバンでハーフウェーを越えてはいけないというルールに改正されたと記憶しています。

 

ところが、つい最近ある大会の映像を見ていたところ、こんな場面に遭遇しました。

キーパーからのクリアランスによる再開で、味方選手がペナルティエリアのぎりぎり横に立ち、その選手に近寄ったキーパーが山なりにボールをトスし、ボールを受けたFPが浮き球をダイレクトで相手ゴール前に蹴り入れる。目的は、当然ゴール前で待ち構える味方選手にヘディングで競らせるためです。もちろん、直接相手ゴールに入っても得点になります。相手チームも心得たもので、ロングボールを蹴り入れる選手の邪魔をしようともせず、ゴールクリアランスになるとさっさと自陣に戻り、ゴール前を固めてロングボールに備えていました。

ちなみにこのプレー、14日に行われたバーモントカップ全日本少年フットサル大会の決勝トーナメントでの出来事です。

 

スロー・キックを問わず、キーパーからのフィードはノーバンでハーフラインを越えてはいけませんが、FPのキックであれば全く問題はありません。同じようなプレーはサッカーのパワープレーにもあります。しかし、サッカーはサッカー、フットサルはフットサル。これは“フットサルにはほど遠いプレー”ではないのでしょうか?

 

その他、同じくバーモントカップの決勝トーナメントでの出来事ですが、味方陣内深い位置からのキックインの場面で、キッカーからのボールを受ける選手が一旦味方ゴールライン側のコートの外に出てポジションを取り、キックインに合わせてコート内に走り込んでロングボールを相手ゴール前に蹴り込むというやり方も目にしました。これもルール上は問題はありませんし、似たようなプレーはフットサルでも良く見かけます。

 

数年前から県外に試合に行くようになりましたが、ある大会で、相手チームのキックインの際にキッカーの壁に立ったうちの選手に対し、相手のキッカーが「近い近い」とアピールし、素直に下がろうとする間に浮き球をゴール前に蹴ってくるチームと対戦しました。

キッカーが「近い×2」と、なぜか必ず「近い」を2回連呼。さらにゴール前で待ち構える選手がキーパーの前に立ち、視界をふさぐ小賢しさ。

棒読みのセリフのようなアピールとファウルすれすれのプレーが印象的で、帰ってからコーチ達とも「あんなプレーで勝って、見てる保護者は何とも思わんのかな」とか、「大分であんなことやったら笑われますね」などと話していたことを思い出しました。

最近では、大分でも同じプレーを目にするようになりましたが、さすがに自陣深くから、しかもゴールラインの外に出てロングボールを蹴って来るのは初めて見ました。

 

 

最近、自分の周りのフットサルの指導者の間で、「チョンドン」が話題になっています。ちなみにこのチョンドン、一見単純そうに見えますが、キッカーとシューターのタイミングやシューターのポジション取り、シュートコースなど、意外とスキルが要求されるプレーでもあり、フットサルの戦術としても認知されています。

チョンドン、チョンドンと見せかけてのドリブル、さらにスイッチ…チョンドンからのバリエーションも豊富です。絶対にやらないというチームもあるかもしれませんが、前に放り込むだけの、サッカーでいうパワープレーとは違い、キックインの何回かに1回、あるいは時間帯と展開によっては充分ありだと思います。

 

一方、前述した二つのプレーは、まさにサッカーでいうパワープレー。ヘディングに合わせる、直接ゴールインを狙う、こぼれ球を拾う…そこからのバリエーションがないこともありませんが、とにかくフットサル特有の細かいコンビネーションをすっぽかしたプレーであることは間違いありません。

 

 

キーパーからのトス→FPのロングボールも、自陣ゴールラインに出てからの放り込みも、ルール上は問題ありません。また、「近い近い」に関しては、キックインの際に4m離れないといけないというルールを上手く利用しているともいえますし、いずれもキック力とヘディングの強い選手がいれば、勝つための手段としては悪くないのかもしれません。

しかし、育成年代である小学生の大会、それも試合の後半にやるのならともかく、大事な試合とは言え前半から当たり前のようにやってくることに、正直違和感を覚えました。

あるいは、今回ロングボールが目についたのも、お互いにチームカラーやベースとなる戦術で戦いつつ(当然ですが)、その上で決勝トーナメントに進んだチーム同士、戦力的に互角だからこそ、勝敗を分けるためのストロングポイントであるロングボールを徹底して使ってきたのかもしれません。映像を見ていただけなので残念ながらそこら辺の臨場感までは伝わってきませんでしたが、とにかくルール上で問題がない以上、勝ったチームが強かったということです。

 

ともあれ、繰り返しますが舞台はバーモントカップの決勝トーナメントです。小学生のフットサル全国チャンピオンを決める大会であり、JFAの主催する唯一の全国大会でもあります。

決勝トーナメントに勝ち上がってきたチームの多くがこういった戦法を取っていたのは事実ですし、冒頭に紹介したルールが改正された頃も、大会に勝ち進むほどキーパーからのスローによるロングボールの競り合いになりがちだったと記憶しています。ということは、レベルの高いチーム同士の戦いになればなるほど、こういう展開になるものなのかもしれません。

ちなみに今回の決勝トーナメントのゲームは映像化されていますので、これからフットサルの試合に臨む多くのチームの指導者がこういったプレーを目にする可能性は大いにあります。しばらくはこれがフットサル界のトレンドになるのでしょうか。だとすれば、キック力とヘディングの強化を指導のプライオリティに置く必要があります。

 

最近、フットサルに限らずサッカーの教本を改めて読み漁っていますが、パスを使ったトレーニングを紹介する際に「ただし、浮き球でのパスは禁止する」という一文が増えてきており、(確かにDFの頭越しだと意味がないよな)と感心したばかりなのですが、どうしたものでしょうか?

ロングボール、自分もワンデーの大会では良く使ってましたけど、そもそも、キーパーからノーバンでハーフウェーラインを越えるキックが認められなくなったのって、『15歳以下年代における更なるフットサルの技術の向上』が目的だったはずですが…